2025年12月10日、一般社団法人マーケターキャリア協会(MCA)は「MCA総会2025」を開催いたしました。
設立から6年。「マーケターの価値を明らかにする」という旗印のもと、1,400名を超える会員の皆さまと共にキャリア支援の道を歩んできた私たちは、この日、協会のあり方を再定義する重要な発表を行いました。
それは、私たちの活動領域を「マーケターのキャリア形成」から「人生そのものの質の向上」、ひいては「社会全体の幸福」へと拡張するという決意です。
2026年春より、私たちは団体名を「一般社団法人MCA」へと変更し、新たなスタートを切ります。
本記事では、総会にて代表理事の田中準也氏、理事の富永朋信氏らが語った言葉を紐解きながら、私たちにとっての「マーケティングの本質」、そこから導き出された新ミッション、そしてMCAという名に新たに込めた想いについてご報告します。
【アーカイブ動画】
本総会の模様は、YouTubeチャンネルにて公開しております。富永氏理事のキーノートをはじめ、当日の熱気をぜひ映像でご覧ください。https://www.youtube.com/watch?v=H8ar6eX3aYU
1. MCAが考える「マーケティング」とは何か?
新ミッションの背景には、私たち自身が考える「マーケティング」の本質があります。世の中にはさまざまなマーケティングの定義が存在しますが、MCAとして総会で提示した定義はこちらです。
マーケティングとは、人の認知・態度・行動変容を起こすための全てのこと
私たちは、マーケティングの本質を「関係性のマネジメント」であると考えています。 企業と顧客、あるいは顧客と顧客。この間に存在する関係性を、人の心の機微を理解した上で、より良い方向へ促していくこと。これこそがマーケティングです。
であるならば、この「人の心を動かし、関係性を構築する普遍的な技法」は、単にモノやサービスを売り、ビジネスを最大化するためだけに使われるべきではありません。私たち自身の人生を豊かにし、社会全体の幸福度を高めるためにこそ、応用されるべきではないか。 そうした問いから、私たちの新しいミッションは生まれました。
2. 「ワークライフバランス」という概念への問い直し
幸福を語る上で避けて通れないのが、現代の労働観への疑義です。総会のキーノートで富永氏が指摘したのは、「ワークライフバランス」という言葉が孕む構造的な矛盾でした。
ワークとライフを天秤にかけてバランスを取ろうとする考え方は、ある種の欺瞞
勤務中に保育園から緊急の連絡があれば、私たちは即座に家庭人の顔に戻ります。「ライフ(人生)」という包括的な器の中に「ワーク(仕事)」も内包されているはずです。 仕事と人生を対立項として切り離すのではなく、人生全体を統合的に捉え直すこと。私たちが目指すのは、そうした本質的なウェルビーイングです。
3. 行動経済学の知見に基づく「幸福の構造化」
では、その「幸福」をどのように設計するのか。 その理論的支柱となったのは、理事の富永氏が6年前に行動経済学者ダン・アリエリー氏と対話した際に得た知見です。富永氏はアリエリー氏との議論を通じ、「幸福は構造化・因数分解が可能であり、戦略的に増幅できる」という結論に至りました。そして、幸福の「必要条件」には「自己認識」と「自己受容」が土台となります。
自己認識 (Self-Awareness)
自分の強みや弱み、好き嫌い、物事を判断する際の価値基準などを客観的に理解できている状態です。「自分はどのような特性(OS)を持っている人間か」を正確に把握することを指します。
自己受容 (Self-Acceptance)
自己認識で把握した自分の特性を、良い面も悪い面も含めて「清濁(せいだく)あわせ呑む」形で受け入れることです。 重要なのは、無理にポジティブに捉えようとする「自己肯定(Self-Affirmation)」とは明確に区別することです。「素晴らしい自分」であろうとするのではなく、欠点も含めた等身大の自分をフラットに認める姿勢を指します。
そして幸福度を高める「十分条件」として私たちが新たに定義したのが、以下の3要素です。
自由:選択肢ではなく「自己決定権」で決定
私たちが考える「自由」とは、単に何でもできることではありません。英語でいう「オートノミー(Autonomy:自律性)」、すなわち「自分のことを自分で決められる状態」を指します。
■ 不自由の例:構造的な「お小遣い制」
富永氏は「不自由」の身近な例として、「お小遣い制」を挙げました。毎日懸命に働いて稼いだお金であるにもかかわらず、それを使うときに他者の許可が必要な状態は、金額の多寡にかかわらず「自己決定権」が欠如しています。自分のリソースの配分を他者に握られている状態は、本質的に不自由です。
■ 自由の実装例:信頼に基づいた「経費精算システム」
では、組織において「自由」をどう実装するか。富永氏はダン・アリエリー氏の経営する会社のユニークな経費精算システムを紹介しました。 彼の会社には、経費の承認フローがありません。ルールは一つだけ。「もしこれが自腹だったとしても、自分はこれを買うか?」と自問すること。それにイエスなら会社のお金を使って良い、というものです。 これは性善説に基づき、会社が従業員を全面的に信頼していることを示す強力なシグナル(仕組み)です。こうした信頼と自律のデザインこそが、従業員の幸福度を高め、組織のパフォーマンスを最大化させるのです。
それでは、MCAにとっての自由とは何か?それは、「固定観念から解放され、キャリアや生き方を自由にデザインできること」です。「こうすべきだ」「こうあるべきだ」といった他者の物差しに左右されるのではなく、自分自身で自由に人生を設計することが大切です。
利他:精神論ではなく「仕組み」としての実装
「情けは人のためならず」という格言通り、他者への貢献は巡り巡って自身の幸福に還元されます。しかし、MCAはこの「利他」を個人の道徳観だけに委ねるのではなく、組織の「仕組み」として実装すべきだと考えています。
■ 分断の例:「あいつら」と「俺たち」の対立
人間には「あいつら(Them)」と「俺たち(Us)」を無意識に区別してしまうバイアスがあります。富永氏は、企業内で頻発する「営業部門とマーケティング部門」の対立や、国家間の分断を例に挙げました。組織のサイロ化は、相互不信を生み、全体の幸福とパフォーマンスを著しく低下させます。この「小さなWe」に閉じこもる本能をどう乗り越えるかが課題となります。
■ 利他の実装例:相互関心を生む「ピアボーナス」
この分断を解消するシステムとしてと挙げられたのが「ピアボーナス」です。 会社から支給された報酬を「素晴らしい仕事をした」と認める同僚に送り合う制度です。富永氏は、この仕組みの本質を「報酬を送る側も他者の良いところを探すようになり、組織全体に感謝と称賛の文化(相互関心)が蓄積されていく点にある」と解説しました。 個人の善意に依存するのではなく、利他的な行動が自然と誘発されるよう設計すること。これもまた、関係性をデザインするマーケティング的なアプローチと言えます。
それでは、MCAにとっての利他とは何か?それは、「自己探求を通じて得た知識や経験を、他者や組織の課題解決に活かすこと」です。人間はひとりでは生きていけません。常に他者との交わりの中で自己を見出すこともあります。学んだことを自分だけに留めるのではなく、自己を取り巻く環境全体に活かすことで、より良い社会を形成していきます。
知足:競争社会における「心の防波堤」
一見、現代社会の競争原理と矛盾しますが、心の健康において重要な概念が「知足(足るを知る)」です。これは成長の放棄ではなく、終わりのない欲望の拡大や他者との比較から距離を置き、「自身の価値基準」を取り戻す技術です。
■ 渇望の罠:SNSという「幸福の過剰演出」
現代において「知足」を阻む最大の要因として、富永氏はSNSを挙げました。SNSを「幸福度が下駄を履いている(過剰演出された)世界」と表現し、虚構に近い他者の華やかさと現実の自分を比較しても不幸になるだけだと警鐘を鳴らします。「もっと売上を」「もっとシェアを」と煽る資本主義の力学に加え、デジタル上の比較競争が、私たちの自己受容を脅かしている現状があります。
■ 知足の実装例:本質的な価値選択とミニマリズム
では、知足的な生き方とは具体的にどのようなものか。富永氏は「選択の基準」の変化を例に挙げました。 一つは、消費行動の変化です。「有名なブランド品だから」「流行っているから」という他者の評価軸でモノを買うのではなく、「自分が好きだから」という内発的な動機で選択すること。もう一つは、「ミニマリスト」的なライフスタイルです。不必要に多くのものを買い込み、所有量で満たされようとするのではなく、自分にとって本当に必要なもの、好きなものだけに囲まれて暮らすこと。 外部からの刺激や評価に振り回されず、自身の内なる「好き」に正直であること。これこそが、終わりのない競争から降り、持続的な幸福を得るための「知足」の実装なのです。
それでは、MCAにとっての知足とは何か?それは、「他者との比較や理想ばかりを追うのではなく、自身の内面の成長や今ある幸福に気づくこと」です。比較対象となる人はたくさんいますし、目標を持ちチャレンジすることで成長できることは確かです。しかし、無理に追い求めると心身の健康を害することもあります。自分の価値基準を大切にしましょう。
4. 新生MCAの定義:Mission・Vision・ValueとMCAの意味
以上の意志を基盤として、私たちは新たなMVVを策定しました。 また、新しいMVVに合わせて、2026年春に団体名を「一般社団法人マーケターキャリア協会」から「一般社団法人MCA」へと改称します。
Mission(使命)
マーケティングで社会の自由と利他と知足の総量を増やす
Vision(目指す姿)
気づきの泉:豊富な経験を持つ多様なマーケターとともに、キャリアを含む人生そのものを切り拓く自分に気づける場所
Value(行動指針)
源泉を見つめる:他者との対話を通じた自己探求を支援する
泉を感じる:論理だけではなく、身体的に思考することを支援する
泉を澄ませる:組織の挑戦に伴走し、自発・創発的な変革を支援する
団体名「MCA」の意味
これまで親しまれてきた「MCA」の3文字に、新しい意味を込めました。
M:Marketing, Mentor, Mindfulness
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マーケティング (Marketing):MCAの活動の根幹であり、個人と社会に貢献する普遍的な技法としてのマーケティング
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メンター (Mentor):一方的な指導ではなく、経験豊かな仲間として、お互いのキャリアや生き方を深く探求し、助け合う関係性
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マインドフルネス (Mindfulness):自己の内面と向き合い、今この瞬間に意識を集中させる姿勢
C:Career, Community, Compassion
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キャリア (Career):職業上の道筋だけでなく、人生そのものをデザインする生き方としてのキャリア
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コミュニティ (Community):単なる集団ではなく、対話と共感を通じて互いに成長し合える、温かい共同体
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コンパッション (Compassion):他者の痛みや課題に寄り添い、共に解決を目指す共感と慈悲の心
A:Action, Association, Awakening
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アクション (Action):単なる知識の習得に留まらず、学びを現実の変革に繋げる行動の重要性
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アソシエーション (Association):MCAという組織や仲間とのつながりを通じて、より大きな価値を創造
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アウェイクニング (Awakening):固定観念から解放され、自身の本質や新たな可能性に目覚める
5. 新たな活動:法人向けプログラム「サシキャリ for Business」始動
理念の刷新に加え、社会実装に向けた具体的なアクションも開始します。
サシキャリ for Business
これまで個人向けに提供し、好評を博してきたメンターシッププログラム「サシキャリ」の法人版、「サシキャリ for Business」の提供を2026年春より本格化します。
多くの企業において、それぞれの組織が理想とするマーケターの育成に課題を抱えています。一方で、現場のメンバーは「ロールモデルの不在」や「モチベーションの維持」といった異なる課題に直面しています。
本プログラムでは、CMOクラスの経験を持つ13名の著名マーケター陣が、社員一人ひとりに6ヶ月間伴走します。上司との面談では引き出しにくい本音や価値観を言語化し、自己認識と自己受容を深めることで、自発的かつ強靭な個の育成と組織の変革を支援します。
サシキャリ プログラム概要とメンター紹介
6. 結び:マーケティングを人生と社会の幸福のために使う
私たちMCAは、「気づきの泉」として、マーケターに限らず全ての人が人生を切り拓くためのプラットフォームへと進化します。
これまでのビジネスの常識を疑い、悩み、対話し、行動する。そんな知的な冒険を、皆さまと共に歩めることを願っております。
新生MCAを、どうぞよろしくお願いいたします。


